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reading log【犬と暮らした季節】パウル・アイパー著/山口四郎 訳

犬と暮らした季節;アイキャッチ
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古本で衝動買いした本。他の本を読んでいたので、先に高校生の娘に読ませたんだよね。すると、「あまり面白くなかった」との感想。老犬と老人の話やし、若い人には向かないのだろうか。

先週から読み始めたが、自分には かなり面白い。正直、感動するレベル。今後もし、犬を迎えるとしたらとても参考になると思った。

犬のみならず、動物全般に対する気持ちの持ちようを教えてくれるだろう。

log・考察

寝床戦争

この本は、よくあるペット可愛い本とはちょっと違う。

なかなか懐かないはずの、老犬になってからの飼い主替わり。それが不思議な縁で何故かとてもなついた。そんな経験を自分がしてるような気にさせてくれる。

ほとんどすべての動物は、抑揚をつけずに静かに話してきかせる人間の声を好む。また、温かい感情をこめた口ずさむような一語一語の響きには、快感を感ずるものだ。

いいこと聞いた。覚えておこう。いい本に出会えて嬉しい。

別れと悲しみと再会の喜びの嵐

ゼンタは異常に人懐っこいので、その背反が出ているな。甘え過ぎ。人間で言えば、自立心が足りない。(笑)

この本を読んでいると、ぜひとも犬を飼いたくなってしまう訳だが、同時に共に生きる苦労も教えてくれる。ただの「ペット愛玩本」ではない。硬派だ。

飼い主さんが家へ帰ってくるとゼンタは大喜びで迎える。興奮して尻尾を狂ったように振りまくるんだが、周囲のものに当たって「血がにじむ」ほどとは。怖いくらいやな。冗談抜きで。

しかし、これだけ懐かれたら相当に可愛いんだろうな。憧れる。いつか、イヌとネコを同時に飼いたい。そしてできれば、鳥を卵から返す🐣とこから飼いたい。

犬と暮らした季節;挿絵1

ただ、怖い面もある。

ゼンタの場合、嫉妬深過ぎて近所の犬をなでてると猛烈に怒って激昂するのだ。「コワ可愛い」と言えばいいのか。ストーカーに近いんじゃないか?もし自分がイヌを飼った時にこうなったらちょっとウザいかも。

(考察)

犬には、オオカミ系とジャッカル系がいて性格が違うそうで。

  • なかなかなつかないけど、一度なつけば一途で礼儀正しいオオカミ
  • すぐなつき従順でカワイイが、誰にでも媚を売り行儀の悪いジャッカル

ゼンタは「オオカミ系🐺」だな。たぶん。

この犬の系統の話は、ノーベル賞 動物学者コンラート・ローレンツさんの「ソロモンの指環」で読んだんだ。超有名な本だ。

しかし、この本の著者パウル・アイパーさんの動物との向き合い方や、観察眼もすごい。犬のマヌケさ加減と、賢さ加減、そして善良さを見事なまでに物語ってた。

苦悩の時の訪れ

ゼンタの発情期が描かれてる。恋愛映画さながらで、思わずタイタニックが頭に浮かんだ。かとおもうと、ぎらぎらした獣の様子もきちんと書いてある。犬同士の恋愛行動をこんな風に描くとは。ちょっと驚いた。

でも悪い気はしない。逆に観察がスゴイ。ゼンタの性格描写が生々しくて、ちょっと引いてしまう場面もしばしば。「コイツ、もし人間だったら悪役だ」って思いながら読んだ。

とうとう、ゼンタがロードに抱かれてしまった。通じたあとのロードの優しく、そして雄々しい態度も描かれてて、人間の恋愛よりも尊く感じさせる。

ええ本や。

ええ本やけど…

犬と暮らした季節;挿絵2

犬の想像妊娠?つわり?ホンマかいな。

まだ出産経験のないゼンタが勝手に出産準備を始める。それも、実際は妊娠していないのに。本の中では「ヒステリー性妊娠」と呼ばれてた。専門用語らしい。

腹が膨らんだり、乳が出たり。果てには、カーテンやクッションを引き裂いて「産室造り」までしてしまう。本能ってすごい。

犬の仔らの天国

母犬の仔犬をみる眼差しのイメージ

正直、テレビでよく見る人の出産のシーンなんかは嫌いである。だが、この本に書かれている犬の出産の描写はとても見事でかなりグッときた。称賛しかない。

生後の、九日、二十日と、母仔のそばで成長を見守り語る。

貪欲に母の乳を求め、激しく飲む様子。その語り口は誇らしげで暖か。犬🐶がほしくてたまらない気持ちになってしまう。危険極まりない本だ。

初めての分娩を経験する母犬の、救いの手を求めて哀願するその眼差し!

この時こそ、人と犬との間に本当の連帯感が生まれるか、苦難の中で当然怯えおののいているまだ未経験の犬に対して、私たちが少しでも意味を持ってやれるかどうか、それが明らかになる時なのだ。

母犬は自然の不思議な本能に導かれて、さっそく新生の仔を舐めて乾かし始める。これは同時に、この舌のマッサージによって産児をぬくめるのだ。

今や自然の力は一刻の猶予も許さない。早くも第二仔が生まれ出ようとする。新しい辛苦と新しい成就の始まりだ!

犬の仔らの天国/ヘーゲヴィンケルのすべて

母犬にさえ嫉妬して唸りかかるらしい。これぞ生粋のグレートデン流だという。犬を飼うとしてもグレートデンはやめておこう。怖い。笑

でも、頼もしい一面もある。

近づく者が危険であるかを見極め、相方を守るこの下りはお見事。身内にだけは優しくて隙も見せ、敵が来たら強く頼もしい。

犬と暮らした季節;挿絵3

家畜とは何か?

原始のころ、最初に犬が仲良くしてくれたから、ひとは他の動物を飼うこともできると思いついた。人間が牧業を営めているのはのは少なからず犬のおかげという訳だ。

この発想は今までしたことがなかった。へそ曲がりの自分だが、いっぱつで腹落ちできた。

子どものころ、一度だけネコを飼ってもらったことがある。その子が好きで仕方なかった。むりやり一緒に寝ようとしたり、「そそう」をすると叱ったり。程度をわかっていない子供が「しつけ」ようとして、結果「いじめ」になっていたと思う。

最後は面倒をみなくなり、いなかの親戚に引き取ってもらった。「バカな子供だった」と、思い出すたびに申し訳なさでいっぱいになる。

今思えば、長年ペットを持たない理由はこれだろう。

次はきっと。

人間が自分自身のために期待する喜びが大きければ大きいほど、相手の動物に対してもそれだけ大きな義務が生ずる。

同胞である動物をいったんわが家に迎えた以上は、責任のあるしかるべき人間ならもう後退はあり得ない。

良きにつけ悪しきにつけ、たとえどんなつまらぬ家畜に対してであろうと、我々は信義を守らなければならないのだ。

ゼンタは賢い犬か否か

ゼンタの小賢しさがハッピーに書き綴られている。子どもの「ずる賢さ」に似ていた。すごく「幸せで楽しい日々」を感じさせ、はたで微笑ましく見ているような錯覚に陥った。ただただ羨ましく感じた。

でもこの本あんまり売れていなさそう。なぜだ!?いい本なのに。先に読ませた高校生の娘もあんまり面白くなかったと言ってた。不思議だ。

動物を愛する者の義務について

メス犬の発情期、その苦しみからの「錯乱状態」がいろいろと書いてある。ゼンタは特別ひどい例だ。

その上で、ペットを持つからには太平無事のときだけではなく、辛く苦しい時期も相手(ペット)に尽くす覚悟を持てという。「カワイイから」だけで気軽に始めるなってことだ。

最近では、犬や猫を飼う人達は「去勢手術」をするとよく聞く。以前から感じていたが、これは良いのか悪いのか。良くはないんだろう、たぶん。

でも、たくさん生まれたときに面倒みきれないのは絶対にアカンし。まだまだペットをもてる境地には至れない。

老いの投げる暗い影(最終章)

ゼンタの眼について詳細に描写してある。

ホントに良くものを知っていないと出来ない表現。読む側にも知識を求められる。正直、知らない言葉が多かった。巴旦杏、オパール色、鳶色、見たことないから頭に浮かばない。でも、文脈からイメージは伝わってくる。

人は心の動きを「眼」に示し、動物も同じく「眼」から気持ちがわかるんだと言う。

年老いて衰えていく姿、死んじゃうまでの触れ合いの様子。言葉を発しない動作の描写だけだから、勝手なイメージで読んでしまう。

わたしはゼンタを撫でてやり、慰めの言葉をかけてやる。と、もう喜びのしるしに尻尾をわずかながら動かす。

眼に浮かぶ光景。

こころに浮かぶ悲しみ。

共感ではなく、実感なんか湧くわけないけど、なんかわかる。

そして「犬の安楽死」の話へ突入する。

ペットと暮らすということはここまで考え、覚悟をしなくてはいけないなんて想像したことなかった。なかなかに厳しい。

犬の安楽死について調べた。
要は 「後悔しなくていいように、愛情をもって きちんとお世話をしなさい」ってことだ。

ペトリィ記事「犬の安楽死はなぜおこなわれるのか」より

※ 巴旦杏(はたんきょう)
①スモモの栽培品種。果実は球形で先がとがり、果皮は白粉を帯び、初め深緑色で後に紅紫色になるものと、熟後も青いものがある。果肉は黄色で甘い。②植物「アーモンド」の漢名。

※ オパール色
調べたけどオパールにはいろんな色があって断定はできなかった。
たぶんこの写真の色を差していると思う。

※ 鳶色(とびいろ)
猛禽・トビの羽毛の色のような赤暗い茶褐色のこと。 いわゆる茶色や小豆色に近いもの。

ラスト

最終章の前半で、「眼」から気持ちがわかると執拗に説明があった。

これがすごく効いてくる。

ゼンタと、アイパーさんの目線のやり取りで雰囲気が伝わってくる感じ。すごく優しい気持ちで死んでいったんだろう。勝手にそう思った。

所感

いい本。「ソロモンの指環」に迫るものがある。

犬だけに絞り込んで、たっぷりの感情移入を盛り込んだ感じ。

入手できるなら、この著者の他の本も読みたい。

ホント、いい本だった。

犬と暮らした季節 ~ゼンタからの最後の贈りもの~
原題=Die gelbe Dogge SENTA

パウル・アイパー著/山口四郎訳

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パウル・アイパー
1891年シュトゥットガルト生まれ。
丹念な観察に基づく、生彩ある動物文学作家
(ブロックハウス百科事典の記述)

  • アイパー傑作動物物語集
  • ロッキー山脈での百日

著書は多数あるようだけど、ネットで探しても見つからなかった。


WIKIPEDIAで、ドイツ語の記事を見つけた。今はgoogleがすぐに翻訳してくれるから便利だ。読んでみたけど、あまり詳しくは書かれていない。第2次世界大戦前のドイツ ナチ政権下で活躍してるから情報が少ないんだろう。映画にしたら話が膨らんで、良いものになりそうな気がする。