2023年6月16日、第169回 直木三十五賞 候補の5作品が発表された。
- 冲方丁 『骨灰』
- 垣根涼介 『極楽征夷大将軍』(7/19🎊受賞!)
- 高野和明 『踏切の幽霊』
- 月村了衛 『香港警察東京分室』
- 永井紗耶子『木挽町のあだ討ち』(7/19🎊受賞!)
どれも読んだことないし、どの作者も知らない人。なので、都度よく調べて一つだけを選んで読むのが最近の楽しみだ。
今回は『極楽征夷大将軍』を読んでみることにした。読むのが遅いので、選考の7月19日までに読み終えないだろう。
慌てず、ゆっくりやる。
log・考察
第一章 庶子
この章は主に、高氏と高国の関係性が強調されていると理解した。少年時代から青年くらいになるまでが「ざっくり」と物語られている。
正直、第一節ではあまり面白いとは思えない。二節で「北条 得宗家が比企一族を根絶やしにした事件」を語ったあたりは「鎌倉殿の13人」を想い出した。記憶に新しい知っているエピソードが繋がってると嬉しい。
この本をもっと楽しむためには、場所や人物相関をきちんと把握した方が良さそうだ。がんばって、もっと丁寧に読み進めよう。
地図
人物図
得宗家というのは、北条家のことなんだって。初めて知った。北条義時(鎌倉殿の13人の小栗旬)以降の執権時代を言うらしい。→Wikipedia
第二章 波上
高氏のキャラが弱すぎるような。主人公としてエキサイティングではないな。そういう少年ジャンプ的なお話ではないのだろう。周りを固めている高国とかの思考も単純すぎて、少し深みが足りないような気もする。
昔あった少年マガジンの「カメレオン」って漫画の趣向ににているかな。主人公はハッタリだけなのに周りの人間が勝手に買いかぶっていって出世するみたいな。
不思議に魅力のある「高氏のキャラ」だけで、この先どのようにストーリを盛り上げていくのか注目だ。
地図
1300年代前半ごろのストーリー。戦のシーンが多くなってきた。舞台も大きく広がって、近畿と関東が中心だ。
「鎌倉殿の13人」もそうだったけど、「坂東武者」って言葉がやたら出てくる。何なんだろう?って思って調べたら、おおよそ関東一円のことを「坂東」と呼んだ時代があるとわかった。
人名メモ
人名もやたら多く出はじめたので、一部だけでも覚え書き。主に高氏との会話があった人や、ここからの登場が多くなりそうな人をチョイスしてメモ。
人名 | よみがな | 立場 | メモ |
---|---|---|---|
大仏 貞直 | おさらぎ さだなお | 北条方の武将 | |
金沢 貞冬 | かなざわ さだふゆ | 北条方の武将 | |
上杉 憲房 | うえすぎ のりふさ | 足利一門の武将 | 憲顕・重能 兄弟の父 |
上杉 憲顕 | うえすぎ のりあき | 足利一門の武将 | 高氏・高国のいとこ |
上杉 重能 | うえすぎ しげよし | 足利一門の武将 | 高氏・高国のいとこ |
楠木 正成 | くすのき まさしげ | 河内国の武将 | 元・北条一門 |
吉良 貞義 | きら さだよし | 足利一門の武将 | 上総介(かずさのすけ) |
吉良 満義 | きら みつよし | 足利一門の武将 | 貞義の長男 |
斯波 高経 | しば たかつね | 足利一門の武将 | |
新田 義貞 | にった よしさだ | 足利家と同格の源氏棟梁 | 北条からは冷遇 |
護良親王(大塔宮) | もりよししんのう | 皇族 | 後醍醐天皇の子(対立) |
赤松 則村 | あかまつ のりむら | 播磨国の武将 | 円心(えんしん) |
名和 長年 | なわ ながとし | 後醍醐天皇側の武将 | |
名越 高家 | なごえ たかいえ | 北条方の総大将 | 北条名家の若造 |
細川 和氏 | ほそかわ かずうじ | 足利一門の武将 | |
今河 頼国 | いまがわ よりくに | 足利一門の武将 | 後の今川家 |
スポンサーリンク
第三章 朝敵
主に後醍醐天皇のダメさ加減が描かれた章だった。Wikipediaなんかで調べても、悪い評判しかない。よっぽどイヤな奴だったんだろうが、物語的にはいい悪役だ。
この人がいたからこそ、北条がついえ、足利が台頭し、織田・豊臣が起き、徳川が栄えたとも言える。歴史上のタラレバは、考え始めると深い。
そして、作者の尊氏に対する評価がメチャメチャ辛い。引用するとこんな感じだ。
野心の希薄さ、定見の無さ、精神面での惰弱さたるや、武門の棟梁としては生まれついての廃人そのものである。尊氏に多少ともあったのは、薄ぼんやりとした愛嬌と、それに伴う他者への度量のようなものだけだった。
「生まれついての廃人」って、どんだけこき下ろす?可哀そうに。他の書物もこんな感じだろうか。ますます、NHK大河ドラマの「太平記」を見直したくなった。
地図
人名メモ
人の名前はたくさん出てくるが、尊氏、直義、師直、円心、新田、楠木、後醍醐くらいを覚えておけば、かろうじて話にはついていける。もう少し脇役にもスポットを当てた方が好みではある。
人名 | よみがな | 立場 | メモ |
---|---|---|---|
後醍醐天皇 | ごだいごてんのう | 大覚寺統 | |
阿野 廉子 | あの かどこ | 大覚寺統 | 後醍醐の側室 |
光厳天皇 | こうごんてんのう | 持明院統 | 今の天皇さんの血筋 |
光明天皇 | こうみょうてんのう | 持明院統 | 光厳上皇の弟(豊仁親王) |
殿の法印 | とののほういん | 天台宗の僧 | 護良親王派 |
恒良親王 | つねよししんのう | 大覚寺統 | 後醍醐と廉子の子 |
北畠 親房 | きたばたけ ちかふさ | 護良親王派の公卿 | 護良親王の正室の父 |
北畠 顕家 | きたばたけ あきいえ | 護良親王派の公卿 | 親房の長子、いいひと |
義良親王 | のりよししんのう | 大覚寺統 | 後醍醐と廉子の子 |
成良親王 | なるよししんのう | 大覚寺統 | 後醍醐と廉子の子 |
北条 時興 | ほうじょう ときおき | 北条氏 | 北条 高時の実弟 |
北条 時行 | ほうじょう ときゆき | 北条氏 | 北条 高時の遺児 |
今河 範国 | いまがわ のりくに | 足利一門の武将 | 今河 頼国の弟 |
最終章 敵対
作者はこの章が言いたくて、前3章までを長い布石にしたんだって思った。怒涛の回収劇。この章は確かに良かった。
3章まで尊氏のことをボロクソに言っていたのも、齢50歳での「尊氏の自覚・覚醒」を強調したいがためなのだろう。他人事とは思えない長期的臨場感があった。
直義の死については病死説をとっていた。ボクも毒殺説よりはこちらが真実と思いたい。この物語での足利兄弟はとても人間臭くて「ぐっ」ときた。
なんだかんだ、足利兄弟は仲良しだったよって言いたいようだ。
人名メモ
人名 | よみがな | 立場 | メモ |
---|---|---|---|
高 重茂 | こう しげもち | 高 兄弟 | 師直の2番目の弟 |
高 師兼 | こう もろかね | 高 一族 | 師直の従兄弟 |
高 師秋 | こう もろあき | 高 一族 | 師直の従兄弟 |
高 師冬 | こう もろふゆ | 高 一族 | 師直の従兄弟で猶子 |
大高 重成 | おおたか しげなり | 高 一族 | 師直の又従兄弟 |
新熊野(足利 直冬) | いまくまの | 尊氏の隠し子 | 直義が養子にした |
足利 義詮(千寿王) | あしかが よしあきら | 尊氏の長男 | 尊氏の跡継ぎ |
亀若丸(足利 基氏) | あしかが もとうじ | 尊氏の次男 | 直義が養子にした |
佐々木 道誉 | ささき どうよ | 師直と昵懇 | 信用できないタイプ |
上杉 朝定 | うえすぎ ともさだ | 直義派 | 上杉憲房の甥 |
如意丸 | にょいまる | 直義の実子 | |
楠木 正行 | くすのき まさゆき | 南朝派 | 楠木正成の実子 |
細川 顕氏 | ほそかわ あきうじ | 北朝派 | 細川和氏の従兄弟 |
感想
3章までは正直退屈だった。ただでさえ遅いのに「読み」が遅々として進まなかった。だが最終章は一気に読めた。取り立ててコレといった感動はなかったが、地味に高国が良かった。
同じ直木賞の歴史ものでも「塞王の楯」よりこっちの方が好きだな。
※
2023年7月19日、直木賞を受賞されました。