鳥の卵がかえり、生まれたてのヒナ🐣が最初に見たものを親だと思い込む現象を「すり込み」というのはあまりにも有名。
読むまではこの本を「すり込み」発見からノーベル賞受賞までを書かれている本だと思っていたが、そんな評伝的なものではなかった。
学術的にも高度な発見がなされていく様子が、コミカルに面白く、そして動物愛にあふれる語り口で描かれた心温まる日記的な文章。これを読むと動物を子供から育てたくなる。
log・考察
まえがきでは、
自身で苦労して確かめた事実ではなく、聞きかじったいい加減な情報で行動し、それを本に書くような当時の識者たちへの怒りがあった。
実利をを求めるだけで愛がないと言いたげだ。現代の我々にも通ずる批判に思える。
⒈ 動物たちへの憤懣(ふんまん)
動物の研究は、「放し飼いで、動物たちが自由でストレスのない状態を観察するに限る」って感じのことが書いてあった。中でも苦労話はコミカルで楽しく、自分の娘のほうをオリに入れた話などは有名なエピソードだ。
親しくなったカラスが、ふわりと肩に降りてくるくだりが良い。子供のころから憧れてて、アニメの中だけかと思ってた。実話だからねコレ。
ハイイロガンの観察描写もとても愛らしい。不安と強がり、びっくりして慌てふためく様子。首を伸ばすしぐさは親しみをこめた挨拶。犬がしっぽを振るのと同じ意味らしい。
⒉ 被害をあたえぬもの--アクアリウム
冒頭のアクアリウム howto で即ひき込まれた。やってみたくてしょうがなくなる。
エアポンプを使うのは邪道ともとれることが書いてあった。人工的な手を加えず生物学的な平衡を保つ。それがいいんだそうだ。激しく納得した。
この本で初めて知ったんだけど、実は熱帯魚は、そこら辺にいる淡水魚よりも飼いやすいのだそうだ。だから、やる人が多かったのか。なるほど。
もっと早く、子どもの頃にこの本へ出合っていたら良かったのに。そう思って我が子たちにも半ば強引にこの本を読ませたが、彼らにはそれほど刺さらなかったようだ。大人になって後悔するのも、それもまた人生だ。
⒊ 水槽の中の二人の殺人犯
二人の殺人犯とは、「ゲンゴロウの幼虫」と「ヤンマの幼虫(ヤゴ)」のこと。
「ゲンゴロウの幼虫」は下品な悪人、
「ヤンマの幼虫」上品なハンター、
みたいな書きかたをされてて、作者の「好み」がモロに出ていて微笑ましい。
⒋ 魚の血
興味がわいてネットで調べながら読んだから、すごく時間がかかってしまった。(もともとおそいが😅)
インターネットで、トウギョの生殖や戦いの動画を探して観たけど、この本の文章には敵わなかった。とにかく愛ある文章だ。2匹のトウギョが対峙したくだりはもう、科学書を読んでるんだか、物語を読んでるんだかよくわからなくなるほど。
「ひれを広げる音が聞こえるよう」とか「輝くような情熱のダンス」、「太古からの儀式化の産物」など、表現がイイ。
トウギョの「恋の輪舞」が始まるまでの描写は魅せられてしまってときめく。生殖のシ-ンは、YouTube情報がふんだんにあって動画でも確認ができた。下の動画では9分くらいからが良いタイミングだ。
二対の宝石魚の夫と妻を入れ替えたりもする。お互いを認識できるのか、気が付くのかを試すために。
育児の様子も書いてある。テレビでよくある、悶えるほどかわいいペット映像に負けずとも劣らない描写だった。
⒌ 永遠にかわらぬ友
コクマルガラスの章で、全編を通じてこの章が一番長い。他の章がだいたい 20ページくらいなのに この章だけは70ページ近くある。作者の思い入れを強く感じる。一番好きかも。
ペットショップで買って育てた、コクマルガラスの雛。卵からかえしたわけではないけど、すごくなついた。ひとりにすると「チョック」と叫んで寂しがるくだりがイイ。
子どもの頃、手乗り文鳥を飼ったことがあるけどね。注射器で、文鳥の雛に餌をあげた記憶がある。確かに手に乗るようになったけど、この話のようにはなつかなかった。逃げちゃったし。
ここから「刷りこみ」の事例的なエピソード。
卵からかえって、初めて目に入ったものだけを「親」と思うシステムだと思っていたけど、そうでもない。
ゾウガメと一緒に育ったオスのクジャク。あとから雌のクジャクも入れてあげたところ、オスのクジャクは、目もくれずゾウガメだけにしか求愛しなかった。
一見笑い話だが切ない話だ。
(考察)
『コクマルガラスが人間に惚れる』話も。耳の穴へゲロを詰め込むエピソードは最高に楽しい。
ローレンツさんは、コクマルガラスの一羽々を、顔や雰囲気で見分けることができたそうだ。目印・識別なしで。相当の苦労や、時間をかけたリアルがわかる。
本当に長い間、絶えず密接に触れ合いながら彼らと暮らす苦労を楽しんだ。といった感じで、こと細かく書いてある。もはや、偉人伝や啓発書に近い。
「頭のよい動物たちは人間的にふるまう」と言いながら、人の良くないふるまいを「動物的」と言って、さとしているようにも読める。そんな文章を処々に感じた。
今まで弱々しかったメスが、強いオスと結婚した途端に態度エルになるそうで、高じて周りをイジメることもあるとか、恋愛についても楽しく書かれていた。
これがまたよく観てる。さすがプロというか、愛だな。求愛するオスと、言い寄られているメスの目線の演技から、受け入れを意図する行動のプロセスをロマンチックに描いてある。へたな恋愛ドラマを見るよりよっぽどときめく。
結婚後の夫婦の様子なども。夫がやさしく妻に食物を贈る、妻はやさしく夫の毛づくろいをする、ローレンツさんのきめ細かい描写でありありと読み取れた。
しかし、コクマルガラスの不倫愛の様子ももれなく書かれてた。そんなことあんのっ?って、ローレンツさん自身も驚いためったにないことだとか。
数年後。
不倫のすえ姿を消していたオスが妻の元へ戻り、妻はいちもにもなく迎え入れ、仲睦まじく元のさやに収まる様子まで美しく描写された。最後が少し寂しい終わり方だったけど、すごくいいお話。
ちなみに、とてもいいコクマルガラスの動画を見つけた。
昔から「カラスを飼ってみたい」「卵をかえすところから飼ったらどうなるのだろう」とよく考えていた。ゴミ捨て場でのふるまいでずるがしこいイメージがついてて、頭が良いなら友達になれるのでは?なんて。
でも「カラスは縁起が悪い」とか、ヒッチコックの映画『鳥』のイメージがあって怖い気持ちもあってなかなかね。法律とかいろいろめんどくさそうだし。
調べてたらいいブログ見つけた。いつか里親になってみたい。
https://carasblog.net/index.php
⒍ ソロモンの指環
ソロモンの指環というのは、旧約聖書に出てくる「動物と話せるようになるアイテム」。ローレンツさんは、そんなものなくても自分は動物と話をできると豪語する。
動物たちの鳴き声は、相互理解の手段とはなっているものの、条件反射的なものだと言う。「気分感情声」や「かすかな合図」につられて基本行動をとるのだと。
他の人(生き物)を意思をもってうながし、行動を求めるようなことはしないと理解できるが、その理解には収まらない例外もいくか語られる。
犬だけは別だと、面白いエピソードで語られていた。やっぱり犬がいいのか。
⒎ ガンの子マルティナ
卵の中でカリカリゴソゴソと音がする。そして生まれてくる。生まれたヒナは濡れた膜のようなものに包まれて醜いが、みるみる内にフカフカまんまるの綿毛のたまのように…
すごく愛しげな描写だ。ユーチューブでかなりイメージに近い動画を見つけた。7分くらいの所から観るのがオススメだ。
そして、
いよいよマルティナがローレンツさんを親と認識。ローレンツさんが「自分は親と認識されたんだ」とはっきりと気づき、この小さなガンを養子にする決心をする。
ここら一連のマルティナの挙動が実にかわいらしい!ローレンツさんをじっと見つめたあと、あいさつをはじめるところ🐣カワイ過ぎる。
ローレンツさんは、よく擬音を使って「気分感情声」を表現する。コクマルガラスの時もやってたけどシチュエーションも良さもあってか、この章のマルティナの「気分感情声」がとても好い。
ヴィヴィヴィヴィヴィ?(ガンのヒナが寂しがり母をさがす声)
ピープ・・・ピープ・・・ピープ・・・(みすてられたちっぽけなガンのなげき)
ヴィルルルルルル(ガンのヒナが眠り込む気分感情声)
とにかく、かた時もローレンツさんから離れようとしないマルティナの挙動が可愛く可愛く、メチャクチャに可愛らしく描かれる。死ぬまでに一度はヒナから育ててみたい。
小さなヒナから若鳥へ育つ途中で見られる、調和のとれぬ中間型の姿が感動的だとある。
大きすぎる足、太すぎる関節、なまいき盛りの年ごろのゴツゴツした身ごなし。
と書かれているがこの期間、「なまいき盛りの週間」としか言えないほど短いんだとか。写真を探してみたがフリーの写真は見つからなかった。
おそらくこれだと思われるピッタリおみごとな写真が掲載されたブログを見つけたので、記録しておく。
≫≫ ハイイロガンのヒナ(ドイツ在住の日本人の方のブログジージのドイツ散歩より)
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⒏ なにを飼ったらいいか!
この章では、ペットを飼うときの心得を指南してくれている。
ちまたでは、動物をペットとして飼うこと自体に是非の議論があるようだが、この本を読むと吹っ切れると思う。ただ、一度飼ったペットに対し、失敗して無責任な態度をとる人たちが後を絶たないのも確か。
そんな失敗をしないように、ペットにする動物選びにアドバイスをしてくれる。おすすめの飼いやすい動物など具体的にいろいろと。
例えば、癒されたいなら幸せに結婚したウソの夫婦が非常にかわいらしいそうだ。お世話もそれほど手はかからない。
心のかよう触れ合いが欲しいならイヌがいい。たくさん散歩に連れて行ってあげれば、心のかよう友情がうまれてイヌもすごく幸せ。
ほかにも、
ホシムクドリや、マヒワがなど、どのように飼いやすいか具体的に説明してあった。特にマヒワは例外的に、ヒナのころからじゃなく、成長してからでも馴れるらしい。
そして、
ゴールデンハムスターをいち押ししてた。底抜けに陽気で、愛嬌たっぷりなんだって。動画を調べてみたら確かにカワイイ。
ほかにも、
いろんな動物についていろんな苦労話をしてた。それもこれも、読んだ人に最初に飼う動物選びで失敗して欲しくないため。
⒐ 動物たちをあわれむ
人間が動物をオリに入れて動物園をやっているのを責めているように感じた。特に、白鳥の翼を部分的に切断し、飛べないようにしておくところ。
白鳥は季節になったら何度でも飛ぼうとするそうだ。でも飛べない…
同情する必要がない動物もいるようで、ものぐさなライオンはオリの中でも大丈夫そうだとか。ヨーロッパイヌワシは「ワシの中でも指折りのばか」なので大丈夫だろうとか散々の言われよう。怒られるで(笑)
⒑ 忠誠は空想ならず
おもに、イヌのことについてふれられていた。イヌにも、オオカミ系とジャッカル系がいて、性格が違うなんて初めて知った。
- なかなかなつかないけど、一度なつけば一途で礼儀正しいオオカミ。
- すぐなつき従順でカワイイが、誰にでも媚を売り行儀の悪いジャッカル。
一言で言ってしまうとこんな感じ。
この2種が結婚して、オオカミ系の妻が、ジャッカル系の夫に操を立てたエピソードはなかなか感慨深かった。
ちなみに、
どの犬種がオオカミ系で、あるいはジャッカル系なのか調べてみたけど、詳しくリストアップしているような文献は見つからなかった。
けど代わりにいい記事と、いい本をみつけた。
オオカミの遺伝子にもっとも近い犬。それはなんと、皆さんの身近にいたあの子だった
詳しくてわかりやすい記事。すばらしい。
「オオカミ系」の様子が良くわかる本をみつけた。ゼンタはきっとオオカミ系
⒒ 動物たちを笑う
マガモでは、ハイイロガンの時のように「すりこみ」が起きにくい。声で親を識別するかららしい。
オウムのエピソードもあった。迷子になりそうになったオウムを、ローレンツさんが「鳴き声マネ」で呼び戻す。
楽しいエピソードだ。
⒓ モラルと武器
動物たちのけんか・闘争を詳しく比較・分析した内容。
多くの動物は、闘争をして負けを悟ったとき、一番の弱点を無防備に相手に差し出す。殺してくれと。そうなると勝者は、それ以上攻撃できない。本能的に。
最後に、人間の戦争とも比較して警鐘を鳴らす。
平和的とされる「ハト」や「シカ」は本当は限度を知らず、恐ろしい牙をもつ「狼」の方が降参さえすれば相手を殺さない。
動物たちが進化の過程で必殺の武器を発達させた場合、
種の存続をおびやかしかねない武器の進化と並行して、「その使用を妨げるような社会的抑制を持たざるを得なかった」のだとローレンツさんは言う。
そして人間は...。
いつかきっと相手の陣営を瞬時にして壊滅しうるような日がやってくる。全人類が二つの陣営に分かれてしまう日も、やってくるかもしれない。
ローレンツさんの論文;動物のモラルと武器より
その時我々はどう行動するのだろうか。
ウサギのようにか、それともオオカミのようにか?
人類の運命はこの問いへの答えによって決定される。
所感
読み終えるのに約8か月かかった。遅読とはいえ、普段はこんなにかからない。なぜこんなに時間がかかったか。
ハマリ過ぎたから。
途中で何度も引き返して読み返す程ハマったのは初めての経験だった。途中で気になった情報(動物)の写真や動画を調べながら、かつ記録をしながら読んだのも初めて。
とにかく、1冊の本を読むのに、こんなにエネルギーを使ったのは初めてだった。漫画を含めても、生涯トップ3に入るお気に入りだ。
追記;ソロモンの指環とは
『ソロモンの遺訓』によれば、大天使ミカエルからソロモン王に授けられたソロモンの指輪は真鍮と鉄でできており、悪霊を使役する力がある。
ソロモン王は指輪を使って神殿を建築し、天使や悪魔を従わせた。ただし、この話は旧約聖書にはなく、偽典のひとつとされている。
ローレンツさんは「こんな指輪を使わなくても多少なら動物の気持ちがわかるのだ」としてこのタイトルをつけたそうだ。